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2025年11月30日

心身を守るインフルエンザワクチンのはたらき

インフルエンザは強い発熱や全身の倦怠感、頭痛などを引き起こし、体だけでなく心の安定にも影響を及ぼすことがあります。特に高齢の方や基礎疾患をお持ちの方では、肺炎や脳症などの合併症につながることもあり、心身の負担は大きなものとなります。
そのため、毎年のインフルエンザワクチン接種は「病気を防ぐ」だけでなく、「心身の健康を守り、安心して過ごすための支え」として大切な役割を果たしています。

インフルエンザワクチンとは

インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスによる重症化を防ぐために毎年接種されるワクチンです。感染を完全に防ぐものではありませんが、発症を抑え、重症化を防ぐことが最大の目的です。
インフルエンザの潜伏期間は一般的に1〜3日と短く、感染後すぐに大量のウイルスが体内で増え始めます。そのため、免疫が十分に働く前に症状が出ることもあります。ワクチンはこうしたリスクを軽減し、重症化を防ぐために重要です。

ワクチンはどのように作られる?
日本で主に使用されているのは「不活化ワクチン(ウイルスの感染力をなくした安全なワクチン)」です。これはウイルスを増やしてから、薬品などで感染力をなくし安全状態で使います。製造の流れは以下の通りです。
1.ウイルス株の選定
WHO(世界保健機関)が世界中の流行状況を監視し、年2回の会議でそのシーズンに流行しそうな型を予測して選定します。日本を含む各地域向けにA型2種類、B型2種類の計4株が決定されます。選ばれた株を基に各国がワクチンを製造します。
2.ウイルスの増殖
多くの場合、受精卵(鶏卵)にウイルスを注入して増殖させます。
3.不活化処理・精製
感染力を失わせ、不要な成分を取り除いてワクチン原料にします。
4.品質検査・出荷
毒性や安全性を確認したうえで瓶詰めされ、出荷されます。
この製法は安全性と安定性が高く、長年利用されてきました。

接種後に体内で起きること
ワクチンを接種すると、体はウイルスの表面にあるタンパク質(HA・NAと呼ばれる部分)を「敵」と認識し、抗体を作ります。抗体はウイルスが体に入ってきたときに素早く反応し、増殖を抑える役割を果たします。
ワクチンはウイルスの“姿形”だけを見せて免疫を訓練させるもので、病気そのものを引き起こすことはありません。

効果が出るまでの時間
免疫は接種してからおよそ2週間(10〜14日程度)で十分に働き始めます。そのため、流行が本格化する前の10〜11月頃に接種しておくことが一般的に推奨されています。

効果が続く期間
ワクチンによってできた抗体は時間とともに減っていきます。予防効果がしっかり保たれるのは約5〜6か月程度で、冬から春にかけての流行期間を十分にカバーできます。ただし、高齢者や免疫力が弱い方では抗体が下がるのがやや早い傾向があります。

交差免疫とは
インフルエンザウイルスは毎年少しずつ形を変えるため、ワクチンと流行株が完全に一致しないことがあります。しかし、特徴が似ていれば「交差免疫(似た型のウイルスにもある程度効く免疫の働き)」が働き、一定の効果を示します。

  • 完全一致  → 高い予防効果
  • 少し違う  → 発症や重症化を軽減
  • 大きく違う → 予防効果が低下
    予測が外れた年でも、重症化予防効果は一定以上保たれることが分かっています。

接種する意義
インフルエンザワクチンには次のようなメリットがあります。
1.重症化を防ぐ
肺炎や脳症などの合併症のリスクを大きく低減します。特に高齢者や基礎疾患のある方に重要です。
2.発症リスクを下げる
完全ではないものの、発症する確率を下げられます。発症しても軽く済む傾向があります。
3.周囲への感染拡大を防ぐ
ウイルスが増えにくくなるため、家族や職場への感染拡大を抑えることができます。

副反応について
注射部位の赤みや腫れ、軽い発熱などはよくみられますが、多くは数日で治まります。重いアレルギー反応は非常にまれです。卵アレルギーの方も多くの場合、安全に接種できますが、心配な場合は医師にご相談ください。
インフルエンザワクチンは、接種から約2週間で免疫が整い、効果は5〜6か月続きます。流行株と完全に一致しない場合でも、交差免疫によって重症化を防ぐ効果が期待できます。毎年変異するウイルスに対して、心身の健康を守り、社会全体の感染拡大を抑えるために欠かせない予防手段です。患者さんご自身だけでなく、ご家族や周囲の方々の安心にもつながります。

南山病院 薬剤科
主任 山西誠

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