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2026年03月18日
「こころ」に寄り添う港を目指して 〜重度認知症デイケア きらら・きらら2の取り組み〜
沖縄本島の最南端にある糸満市は、古くから「海人(うみんちゅ)のまち」として知られています。
港には今日も漁船が行き交い、地域の人々は互いに助け合いながら暮らしてきました。この「ゆいまーる(助け合い)」の精神が根付くまちで、私たち南山病院は、児童思春期からの入院・外来医療、就労支援、高齢期の認知症医療まで、幅広い世代の心の健康を支える医療を行っています。
誰もが安心して自分らしく生きられる地域社会の実現を目指し、これからも地域の人々と共に歩む存在でありたいと願っています。その取り組みのひとつが、重度認知症の方のためのデイケアです。
重度認知症デイケア「きらら・きらら2」の役割
「きらら・きらら2」では、認知症が進行しても、その人らしい笑顔と暮らしを守ることを目指しています。一日の中で、少しでも心が動く時間、安心して過ごせる空間を大切にしながら、スタッフが一人ひとりの思い出や生活背景に寄り添い、支援を行っています。
利用者さまの多くは、戦争という大変な時代を懸命に生き抜いてこられた、私たちが心から尊敬する方々です。苦しい時代を乗り越え、家族や地域を支えてこられたその人生に触れるたび、私たちは多くの学びと勇気をいただいています。だからこそ、「きらら・きらら2」では、その方々が安心して笑顔で過ごせるよう、日々の時間を丁寧に積み重ねています。

取り組みの柱〜コグニサイズと回想法〜
コグニサイズ
コグニサイズとは、運動と認知の課題を同時に行うことで脳の働きを活性化し、認知症の予防や健康促進を目指す取り組みです。たとえば、足踏みをしながら「1、2、3、4」と声を出し、指定の数で拍手をするなど、「体を使う運動課題」と「頭を使う認知課題」を組み合わせることで、心身の機能を効果的に高めます。体を動かすのが難しい方には、職員が隣で声を掛けながら、できる範囲で楽しく取り組めるよう工夫しています。
回想法
回想法では、懐かしい音楽や伝統行事をきっかけに、思い出話を語り合います。糸満の港やハーリー、昔の市場の話など、地域の風景が語られるたびに、利用者さまの表情が明るくなります。昔の記憶を呼び覚まし、それについて話すことで、脳の活性化、自己肯定感の向上、不安や孤独感の軽減、コミュニケーションの促進などが期待され、認知症の進行予防にも有効とされています。
「昔ハーリーを漕いだよ」「市場でかまぼこを売っていたさ〜」そんな語らいの中に、その方の人生の輝きが蘇ります。職員も一緒に笑い、学びながら、その土地の温もりを感じています。
家族・地域とのつながり〜家族会とオレンジカフェ〜
認知症の支援には、ご本人だけでなく、ご家族や支援者との協働が欠かせません。「きらら・きらら2」では、年に1回家族会を開催し、日頃の介護の悩みや不安を共有できる場を設けています。医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、介護福祉士など多職種がチームとなり、介護の工夫や支援制度の活用方法をお伝えしています。家族同士の交流から「自分だけじゃない」と安心される方も多くいらっしゃいます。
また、地域の方々に認知症への理解を深めていただくため、3ヶ月に1回「オレンジカフェ(認知症カフェ)」を開催しています。医師による講話やコグニサイズ体験、認知症の周辺症状(BPSD)への対応方法の勉強会などを行い、その後のカフェタイムでは参加者同士が介護の悩みを語り合い、アイディアを出し合います。
「介護で疲れていたけど、話を聞いてもらえて楽になった」「地域に仲間がいるとわかった。心強い」——そんな声が参加者から届いています。オレンジカフェは、医療と地域、家族と支援者を結ぶ、あたたかな交流の場です。
高齢者虐待防止への取り組み
私たちは、認知症の方やご家族が安心して暮らせる地域づくりのため、高齢者虐待防止にも力を入れています。虐待は「悪意」だけでなく、「介護疲れ」や「孤立」などの背景から起こることも少なくありません。「きらら・きらら2」では、利用者さまやご家族の小さな変化に気づけるよう、職員全員が心を配っています。
表情や言葉、行動のわずかな変化から心身の状態を丁寧に観察し、早期発見・早期対応を心がけています。また、地域包括支援センターや居宅支援事業所、デイサービスなどの関係機関と密に連携し、支援体制の強化に努めています。必要な情報は速やかに共有し、ご家族・関係機関と協力しながら、利用者さまを中心とした支援を行っています。
港のような存在になりたい
糸満市は、古くから海と共に生きてきた港まちです。船が荒波を越えて戻る場所、安心して休む場所。私たちもまた、そんな港のような存在になりたいと願っています。
認知症と共に歩む日々は、ときに不安で、ときに迷うこともあります。それでも「きらら・きらら2」に来るとほっとする、笑顔になれる。ご本人もご家族も、地域の方も、少し肩の力を抜ける場所でありたい。それが私たち南山病院・重度認知症デイケア「きらら・きらら2」の願いです。
糸満市の海のように、穏やかであたたかな時間を、これからも地域と共に紡いでまいります。
南山病院 重度認知症デイケアきらら
主任 上地ちさと
