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2026年03月02日
こころに寄り添う医療安全
沖縄県糸満市には、精神科や診療内科の医療機関があり、地域の人々が安心して治療を受けられるよう努めています。精神科の医療安全は、一般の内科や外科とは異なり、特有の視点が求められます。薬剤の管理や処置の徹底といった事故防止策は当然重要ですが、それ以上に大切なのが、「患者さんの心の状態に起因するリスク」への理解と対応です。
例えば、幻覚や妄想、不安、希死念慮といった症状がある場合、患者さんが治療や入院に同意できなかったり、自傷行為をしてしまうことがあります。精神疾患を抱える患者さんにとって、医療安全は単なる事故防止だけでなく、「こころの安全」を守ることが何より重要になります。
ある日、私が経験した出来事です。ある患者さんが服薬を拒否されていたのですが、業務の忙しさの中で対応を後回しにしてしまいました。その結果、患者さんは病室から出てこなくなり、精神状態が悪化してしまいました。振り返ると、あの時“拒否”という行動の裏にあった不安や恐怖にもっと早く気づき、寄り添うべきだったと反省しています。
こうした経験を通じて、私たちは患者さんの言動を見極め、より適切な対応をする重要性を痛感しました。このような場面では、「患者さんは今、どう感じているのか」「何に不安を抱えているのか」を考え、対応することが必要不可欠です。そのため、ただ決められた手順をこなすのではなく、患者さん1人ひとりの状況を丁寧に把握することが大切です。

精神科病院では、どんな状況でも患者さんが安心して治療を受けられるよう、信頼関係を築くことを大切にしています。特に沖縄県のような地域密着型の精神医療では、患者さんと長く関わりながら、一人ひとりに合った療養環境を整えていくことが求められます。さらに、スタッフの安全を守ることも医療安全の重要な要素です。スタッフ自身が安全な環境で業務に従事できることで、より良いケアを提供できるようになります。そのため、様々な場面を想定した訓練を行い、医療現場の安全性を高めています。
しかし、病院側の努力だけでは限界があり、患者さんの協力によって医療安全が支えられている場面も多くあります。例えば、転倒を防止するために履物の種類や病室のレイアウトを一緒に考えたり、療養生活が長い患者さんが病棟内の異変を察知してスタッフに知らせてくれる場面もあります。こうした患者さんとの協力が、医療の現場をより安全にし、より良い治療環境を実現する重要な鍵となっています。
医療安全という言葉には、時に冷たい印象が伴うことがあります。しかし、精神科病院における医療安全とは、単なるルールや管理ではなく、患者さんの心に寄り添い、その人がその人らしく生きることを支えるものです。当院では、患者さんとの信頼関係を何よりも大切にしながら、より良い医療安全の実現に向けて日々努力を重ねています。これからも、スタッフだけが「正しい」と考える医療安全ではなく、患者さんと共に築いていく医療安全を目指し、地域全体で安心できる環境を作っていきたいと考えています。
南山病院
医療安全管理者 小坪宏光