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2025年11月15日
[後編]子どもの“らしさ”に寄り添う診療を目指して

児童思春期外来の診療と地域連携
神経発達症のお子さんの受診が多いことから、前編ではそのお話をしましたが、当外来には、うつや不安など、さまざまな症状を抱えるお子さんも来院されます。当院の児童思春期外来は、子どもたちの「こころ」と「発達」に関わる困りごとに専門的に対応しています。
児童精神医療は、大人の精神医療とは異なる難しさがあります。子どもたちは自分の気持ちをうまく言葉にできないことも多く、症状の背景には発達的特性や環境要因が複雑に絡み合っています。そのため、私たちの診療は単に症状を見るのではなく、子どもの全体像を多角的に把握することから始まります。本人の語りだけでなく、行動や身体症状に表れるサイン、保護者の話、生育歴、心理検査、学校からの情報など、あらゆる手がかりを丁寧に拾い集め、治療方針へとつなげていきます。
初診時には、お子さんと保護者それぞれにお話を伺う時間を設けています。「よく来てくれました」という気持ちを大切に、お子さんが安心して話せるよう、「今日は自分で来たいと思いましたか?それともお母さんに言われて?」といった会話から始めます。「この場所は、困っていることを一緒に考えるところだよ」と伝え、緊張をほぐします。お子さんとのやりとりでは、学校生活や友人関係、家庭での様子、興味関心や得意なことなど、日常の中にある「その子らしさ」に注目します。楽しさや苦手さ、ちょっとした行動の傾向などを丁寧に拾い上げ、主訴の背後にある発達的・情緒的課題を把握していきます。
保護者には、生育歴(妊娠・出産・乳幼児期の発達の様子)、現在の生活状況、感覚過敏や運動の不器用さなどの情報を伺い、園や学校での様子も具体的に確認します。必要に応じて学校との連携も進めます。
初診後は数回の来院を通じて、発達特性や知能・学習能力、感情のコントロール、ストレス対処、環境との適応などを多面的に評価します。心理検査やスクリーニング、学校アンケートなどを活用しながら進めていきます。
特に、不登校や友人関係の困難、感覚過敏、強いこだわり、集中困難といった訴えに対しては、診断名にとらわれず、「なぜ今この困りごとが起きているのか」「どのような環境調整や支援が必要か」を見極めていきます。
子どもの診療は、診察室の中だけでは完結しません。学校や家庭、地域との連携が不可欠です。支援級や通級、療育などの支援資源を柔軟に活用しながら、本人が本来持っている「よさ」や「強み」を伸ばしていけるよう、共に考えていきます。
当院の児童思春期外来の基本方針は、「その子が自分らしく生きていける道を一緒に見つけていくこと」です。うまく話せなくても大丈夫です。精神科は受診のハードルが高いと感じる方も多くいらっしゃいますが、当院ではその敷居を少しでも低くできるよう、安心して相談できる雰囲気づくりに努めています。
「今はつらくても、きっと大丈夫」そう思える時間と空間を提供できるよう、スタッフ一同、日々の診療に取り組んでいます。
南山病院 児童思春期外来
子どものこころ専門医 山口 一豪
